奇跡の夜だった。忘れられない、忘れたくない
その夜について、話をさせてほしい。
話の始まりは8月のある日。
NANA-IRO ELECTRIC TOUR2019(以下、ナナイロ)の開催が発表された。
ホームタウンツアー神戸公演で、「秋に関西へ来る予定」とゴッチが話してくれたので何かがあるんだろうな、とは思っていたが、あまりにも予想外だった。
ナナイロの詳細を書くと細かくなるので簡単にまとめると、2003~2004年にアジカン・エルレ・テナーが中心になって行われた対バンツアーである。(各会場にゲストを招いているので、中心とまとめた。)
同世代のバンドが、対バンツアーをするだけでもエモさであふれてしまうのに、それが大好きなバンドで、15年ぶりに開催されるなんて…どんな感情になるのが正しいのか、私には分からなかった。
15年、あまりにも長い期間である。私は前回のナナイロに参加していないし、それ以前にどのバンドのファンでもなかった。
でも、誰かがこの話題を出した時のなんとも言えない感情で溢れた声が「素晴らしいツアーだったんだな。」と感じさせるには十分で、憧れというか「自分が体験できなかったもの」という悔しさも混ざった塊になって、心の奥底に居座っていた。
一次先行は大阪と横浜、二次先行も大阪と横浜、リセールも大阪と横浜に出したが、結果として当選することはできなかった。腹をくくり、多忙日である愛知公演の日に希望休を出し、一般抽選に応募。見事座席(スタンディングだけど)をつかみ取り、職場の人の心象を悪くした代償に、ナナイロに参加することが出来た。
2019年10月23日。愛知県常滑市。
空港のお隣の会場へ。向かう電車が遅延するという精神的負担を乗り越え、やってきたのは愛知国際展示場・Aichi Sky Expo。
精神的余裕がなかったのであまり覚えていない。(どれこもれも遅延のせいだ。)
今回のナナイロの会場キャパは、だいたい1000~1500だと思う。「絶対当てたるぞ」という気持ちと、「みんな見たいだろうしな」という気持ちが行ったり来たり。仕事の多忙日に無理やり休みをぶち込みつかみ取った。一般当選ということもあり、後列ブロック後半で入場したが、もう場所なんてどこでもよかった。一つ前のナナイロ大阪公演、外で聞いていた私にとっては、入れただけで満足だった。
ただただ、ソワソワした。実感があるような無いような、これだけ人が集まっているのに「ナナイロほんまにやるんか?」という気持ちがなかったといえば嘘になる。
「ナナイロ、ほんまに観れちゃうんやなあ」
暗転、聞き慣れたアルペジオが会場に響きわたる。クロックワーク、ホームタウンツアーの空気感をそのまま持ってきたようだ。
「最新のアジカンとテナーでエルレをおかえりなさい!と迎えたい」
ナナイロの決起会でゴッチが言っていた言葉だ。
そしてアジカンが次に繰り出すのは聞き慣れた四つ打ち、君という花。歓声が上がり、一気に客を引き込む。ライブで盛り上がる定番曲だ。
何度も聴いた君という花のリフレインが、やけに胸に残った。その理由はきっと、このライブが特別だからで、最後の一音まで聴き逃したくなくてステージを見つめた。
印象的なオクターブ奏法、イントロのリフで誰もが「あの曲だ」と理解する。会場いたるところから湧き上がる歓声は彼らの功績を称えるようで誇らしくて、私も大きな声をあげた。
リライトはアジカンを代表する曲になり、「リライト警察」などとゴッチが茶化すが、やっぱりフェスで演奏すると喜ばれる。いつもなら間奏中にオリジナルのコールアンドレスポンスが入るのだが、今回は無し。私は「シンプルなリライト」と呼んでいる。観客とのコミュニケーションはリライトを通して、ではなく、パフォーマンス全てを介して、ということなのだろうか。
リライトからソラニンへ。そしてストレイテナー、ホリエアツシがステージに。
「宮崎あおいさんは本当は歌わない女優さんなんだけど、ソラニンでは歌ってくれたんだよ」
「そうなの?アジカンだからなのかな?」
楽屋?とつっこみたくなるようなゆるいトーク。
アジカンファンはホリエがステージに現れた時点で、もうどの曲をやるか確信に変わっている。続くのはホリエ節炸裂のサウンドが響き渡る、廃墟の記憶。レディオクレイジー2018振りである。
「大切な友達の曲をやりたいと思います」、この言葉に続くのはART SCHOOL、FADE TO BLACK。
「ここでこの場にいないバンドの曲をやるの、めちゃめちゃアジカンらしいな。」と思いながら、限られた持ち時間をカバーに使うアジカンと、今回のナナイロに参加している3バンド以外の彼らの戦友たちに思いを馳せた。たくさんのバンドと切磋琢磨して、尊敬しあって、今の彼らが存在しているのだ。(ストレイテナーのベースひなっちとギターのOJは元ART-SCHOOL。ART-SCHOOLは前回のナナイロにゲストで参加している。)
サイレンから続くのは、アジカンの復活を告げる曲、Easter。イントロのギターがあまりにもかっこよすぎて、いつも予想以上に声を上げてしまう。Easterのギターが会場に響き渡る光景、最高だ。
最後の曲は、最新アルバムホームタウンにも収録されているボーイズ&ガールズ。
「始まったばかり」、そんな言葉を何度も歌う彼らがあまりにもかっこよくて、胸がいっぱいになる。
アジカンと会場にいた誰かが、いつかまた出会って欲しい。できたらワンマンが良いけど、フェスでもワンマンでも、それぞれに一番ぴったりな方法で。
「またどこかで会いましょう。」
この言葉が表すように、アジカンは音楽を辞めないから。
クロックワーク
君という花
リライト
ソラニン
廃墟の記憶 w/ホリエアツシ
FADE TO BLACK
サイレン
Easter
ボーイズ&ガールズ
サイレン
open.spotify.com
19:40 ELLE GARDEN
スクリーンに映し出されたスカルのエンブレム、歓声が地鳴りのように響いた。
「ついにきてしまった。」
私以外の観客も同じことを思っただろう。期待、高揚感、歓喜なにもかもがあの歓声に現れていた。
1曲目からFire Cracker、Space Sonicとオーディエンスの熱を全身で受け止め、倍にして返すような演奏。心から嬉しさが溢れて、もう止めることが出来なかった。
「再結成してから、すごく愛されていたんだなあっていうのがわかって。アジカンの演奏を聴いて、今日やるべきことが分かった。このアジカンから繋いだバトンを、一度も落とさずテナーに回すこと。」
Supernovaが演奏され、もう会場は最高潮。どこまで行くんだ、この盛り上がり。Pizza Man、風の日、Red Hot、ジターバグ、Salamander、Make A Wish。
それぞれのアルバムからバランスよくピックされた曲達をオーディエンスが歌う。細美がもっとと煽り、会場がひとつになる。いたるところで皆歌っている。幸せな空間だ。
会場の中には活動休止になってからエルレを好きになった人もいるだろう。私みたいに活動休止前にライブを観れなかった人も、エルレのライブが初めての人もいただろう。全部を包み込んでくれた、抱きしめてくれた。あのステージには力強さとかっこよさと、全部を包み込んでくれる優しさがあった。
最後の曲はやっぱり虹。
フロントマン3人がホテルを抜け出しラーメン屋に向かおうとするもアジカンのマネージャー、小川氏に確保された。仕方なくラーメン屋へ行った御一行が帰り道に見かけた虹を元に作られたという逸話が残っている。ぴょこぴょこ楽しそうに跳ねながら歌うゴッチに
「一番ナナイロを喜んでいるの絶対この人だよなあ。」
なんて笑ってしまいながらも、改めてこのツアーに対する感情が溢れ出した。
「復活マジック」なんて、安っぽい、くだらない表現を、誰も言えないくらいかっこいいライブを見せてほしい。ライブを重ねるたびにかっこよさを更新し続けていってくれよ。またかっこいいライブを見せてくれ。今度はライブハウスで彼らが見たい。
open.spotify.com
Fire Cracker
Space Sonic
高架線
Supernova
Pizza Man
風の日
Red Hot
ジターバグ
Salamander
Make A Wish
虹 w/ゴッチ
今回のナナイロは3公演。それぞれがヘッドライナーを務める。私が参加した愛知公演はストレイテナーがトリだ。
STNR Rock and Rollがかかり、会場に拍手が響き渡る。ナナイロの最後、ストレイテナーのステージが始まる。
「俺たち、ストレイテナーって言います。」
いつも通りの口上に続くのは代表曲の一つ、Melodic Storm。一瞬にしてエルレの空気をテナーに塗り替えた。ここからは完全に、テナーの世界だ。
冬の太陽、Braver、REMINDER。ギターからキーボードに切り替え、また新しい別の姿を見せる。
「冬の恋の曲です。」
その言葉の後に続く、灯り。最終日の横浜アリーナ公演にて、細美武士の結婚が発表されたが、そのパーティで演奏されたのが灯りだ。
スパイラル、吉祥寺、そしてライブの定番曲シーグラスでは会場全体に手拍子が響く。
「細美くんが、「俺は対バン、タイマンだと思ってる。今日もそのつもりで来てる」っていってて笑」
少なくともゴッチは、ただ嬉しい気持ちで溢れていたけれど、この言葉でいくつになってもライバルなんだな、とふっと気付かされる。
仲間のことを笑いながら話す様子が印象に残った。
細美が涙したという話が残っており、ハイエイタスとしてトリビュートアルバムにも参加したROCKSTEADYを細美とともにアンコールで。そしてKILLER TUNEはゴッチと行いナナイロ愛知公演を締めくくった。
アジカンの披露曲の中で最新リリースは、昨年12月に発売されたホームタウン収録のクロックワークと廃墟の記憶。そしてテナーは10月9日に発売されたミニアルバム「Blank Map」に収録されているSTNEと吉祥寺、スパイラル(先行シングル)を披露した。結果として一番最新の姿を見せたのは、テナーということになる。
「このメンバーでトリするのしんどい」なんていうインスタを挙げていたが、見ている人間から見るとどこ吹く風。ストレイテナーとして生きていく、そんな力強さを全身に感じたライブだった。
「俺らはアジカンやエルレにたくさん助けてもらったから、俺たちもそうなれていたらいいなと思います。」と、ホリエが呟いた。
結成から約20年。活動を続けている同期は多くないだろう。
テナーも2人から3人、そして4人へ。一番形を変えたのはテナーなのかもしれない。しかしその変化は決して悲しいものではなく、音楽的な希望を含んでいる。
1月に20周年のアニバーサリーを締めくくり、21周年に入った2019年。図らずも同世代のバンドとの対バンツアーを重ねて、彼らはどう感じたのだろうか。
年数がどうの、と言いたいわけではない。しかし、演奏に声にバンドを包む空気に、歴戦の証を感じたことはないだろうか。ナナイロツアーと並行して行われたDrawing A Mapツアー。リアルタイムで変化を続けながら進む彼らを追いかけていきたいなと感じた。
open.spotify.com
STNR Rock and Roll
Melodic Storm
冬の太陽
Braver
REMINDER
灯り
スパイラル
吉祥寺
シーグラス
en
KILLER TUNE w/ゴッチ
ROCKSTEADYw/細美武士
アジカンもエルレもテナーも本当にかっこよかった。ナナイロツアーから15年。エルレやテナー、この2バンドがアジカンと盟友であり戦友でライバルであることが本当に嬉しくなった こんなかっこいいバンドと肩を並べることができるわたしの大好きなバンド、誇りだ。
ずっとファンでいる人。
何年も、何十年も願ってやっとライブに行ける人。
これが最後になる人。先日ファンになった人。
良く知らないけど友達に言われたから参加した人。
チケットを当てるとき、上記は全く考慮されない。
アジカンだけを見たい人がいても、エルレだけを見たい人がいても、テナーだけを見たい人がいても、それは誰にも批判することはできないし、されるべきではない。
私がアジカン好きになってすぐ、たくさん私に音楽の話をしてくれたあの子が、「ナナイロに行きたい!」って言ってくれた時、とても嬉しかったし、実現してほしかった。もし、ライブを見てくれたのなら、また音楽の話ができるんじゃないか。「今のアジカンもかっこいいね」なんて言ってくれるんじゃないか、そんなことがありえるんじゃないか、そう期待してしまった。
しかし、それは実現しなかった。そして彼女はこれからも、音楽を聞かないだろう。でも本来は、そういうものなのだ。
ナナイロという奇跡を見届けて欲しい人が、ほかにもいる。あの子もあの子もあの子も、あの人にも見て欲しかった。願いがすべて、叶うことはない。でも、全く予想していなかったナナイロの開催。本当に奇跡の夜だった。ありえないくらいにたくさんの奇跡が重なって、あのステージを構成していたのだ。
誰かの青春になりたいと願うバンドがいる。記憶をそこで止めないでほしいと呟くバンドがいる。音楽を辞めようと決意したバンドがいる。これからも音楽を続けると宣言したバンドがいる。
バンドは奇跡の集合体なのかもしれない。そんな彼らが作り出す空間はあまりにも力強くて、儚くて、見惚れてしまう。
終わってほしくなかった。ずっとライブが続いて欲しかった。でも、始まりがあるから終わりが来るわけで、また次の「始まり」を、楽しみに私は生きるのだ。
「久しぶりにライブに来たっていう人もいると思う。でもまたライブハウスに戻ってきて。色々落ち着いたら。俺たちは10年後もどこかで音楽を続けているから。」
ゴッチの言うように、タフな時代を私達は生きている。目まぐるしく変化する環境に振り回され、途方に暮れる時もあるだろう。これからもそうだ。でも音楽があれば、音楽を楽しむ空間にいれば、私達は幸せになれると思うのだ。誰の真似もせず、音楽を全身に浴びて、楽しむことが出来るから。
生きていれば、音楽を好きでいれば、こんな奇跡を目撃できるんだと実感した。
そして次に彼らのステージを見るときはさらにパワーアップした姿を見たいのだ。これからも進み続ける彼らを、最高のステージだったあの日の夜を、彼らが塗り替えてくれる日を楽しみに。
最後にこれだけは言わせてほしい。ELLE GARDEN、おかえりなさい!
アジカン、エルレ、テナー最高の夜をありがとう!またやってね!